2011年2月15日火曜日

大甕

日傾き、ものまゐりはて酉の刻ばかりなりけり。日ごろ例ならず日照りがちなるに、夕涼みといふころなれば、すこし涼しき風などもや吹きぬらむ、御簾ばかりをおろしてみな廂のほどにぞゐたまへる。父中納言はあるやうあるべきにてまかりたまへりけり。大君女房ども若君の幼き御もの言ひをらうたくあはれがりなどしたまふ。もの縫ひなどするもあり。ややありて御乳母子の定則(さだのり)弘雅(ひろまさ)などして、昼つ方用意せさせつる、甕の大きなるに池の鯉をぞ遊ばせたるをおこさせたまへり。若君は池のいををば見知りたまへりやと、女房どもざれさわぐ。君の日ごろ近くには見倣はぬにや、怖ぢつるさまもをかし。ところにつけて歌などよみけれど、もらしつ。

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