2011年2月10日木曜日

あやめ草

父中納言は午の刻ばかりにおはしぬ。網代車にうちとけて狩衣姿にて、中将の若君、これは中の君の腹にて三歳ばかりなりけり、かい抱きてひとつ車にておはしけり。中の君なやましくはべればえ参らぬこそ口惜しけれ、とのたまふ。もろともにおはさましかばあはれなることどももおのづからきはぎはしからで語らひたまはましを、若君のみにては遅れたまふ身の知られたまはむこそなかなかならめと、女房どもさかしらがれり。大君は正身にもさこそ深からね疎ましうおぼえつるを、若君の薬玉持ち幼くてありきたまふらうたげさにぞうちとけたまひて、見えたまひて後はただかなしくあはれにぞ見たまふ。薬玉に結ひて、

君がため玉にむすべるあやめ草千尋のゆかり千代にとぞ思ふ

御返りごとには、

あやめ草ねのみなかるる玉の緒も君し思へば長くとも思ふ

とぞ。

前回の反省:

平安時代にも厨房のことを「かしき」と言ったかどうか。古語辞典には出てないんだよな……。

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