詠菊。こしをれ三首かくなむ。
染む色もなきわが宿に白菊は照る月影をうつしてぞ咲く
うつろはむものと知りてか菊の花時雨れてまさる色に香にかな
濃き薄きへだてはあれど菊の花わけても置かぬ朝露の秋
月につけて一首だに詠むべし。
菊てふことのいはば、枕草子に、
七日の日の若菜を、六日、人の持て来、さわぎとり散らしなどするに、見も知らぬ草を、子どものとり持て来たるを、「なにとかこれをばいふ」と問へば、とみにもいはず、「いさ」など、これかれ見あはせて、「耳無草となんいふ」といふ者のあれば、「むべなりけり、聞かぬ顔なるは」とわらふに、またいとをかしげなる菊の生ひ出でたるを持て来たれば、
つめどなほ耳無草こそあはれなれあまたしあればきくもありけり
といはまほしけれど、またこれも聞き入るべうもあらず。
(岩波文庫『枕草子』pp. 180-181)
とありけんもをかし。