2012年11月11日日曜日

詠菊。こしをれ三首かくなむ。

染む色もなきわが宿に白菊は照る月影をうつしてぞ咲く
うつろはむものと知りてか菊の花時雨れてまさる色に香にかな
濃き薄きへだてはあれど菊の花わけても置かぬ朝露の秋

月につけて一首だに詠むべし。

菊てふことのいはば、枕草子に、

七日の日の若菜を、六日、人の持て来、さわぎとり散らしなどするに、見も知らぬ草を、子どものとり持て来たるを、「なにとかこれをばいふ」と問へば、とみにもいはず、「いさ」など、これかれ見あはせて、「耳無草となんいふ」といふ者のあれば、「むべなりけり、聞かぬ顔なるは」とわらふに、またいとをかしげなる菊の生ひ出でたるを持て来たれば、

つめどなほ耳無草こそあはれなれあまたしあればきくもありけり

といはまほしけれど、またこれも聞き入るべうもあらず。

(岩波文庫『枕草子』pp. 180-181)

とありけんもをかし。

2012年10月21日日曜日

まことは、枕草紙ひもときしはじめより、としごろ、心のすすむままにかずかずいにしへふみども読みてけるに、やうやう、これは心おごりやしてけん、われは枕も読めり、源氏も読めりとてしたり顔に差し出でがちにてありけるぞなかなかに面ぶせなる。ありしやう、ひとくだりひとくだり、おぼつかなからむはあきらめ、心入れ、おほなおほな考へてぞなほあるべかりける。うひうひしかりしほど思ひ出づべし。

ふみよみ、知れば得たりとかしこげに思ひなすに、さは、おのれしかるべからむをりにも必ずよみしさまにもえ書き出づべきやは。さきの歌、「人に見ゆらめ」は「人には見えめ」とぞよむべかりける。さなくはえしられず。かやうのことだにつけてもなほをさなきことしるべし。

いにしへの心をたづねふみみればかくぞとほくてちかきみちなる

2012年10月19日金曜日


世の中のさはがしかりつるままに、あへなう、え書きやらずなりぬるくちをしうなむ。かばかりのをりこそ、あがことにあらずがほにしもあるべかりけれ。わたくしにも、わりなくあさましきことのみありしかば、それさへうち重ねわびしくてなむかく久しくはなりにける。などかうてあるべき、なほ、

はちすとも人は見ゆらめ谷の奥に生い咲くからに香やは隔てる